マンションと法(第五十歩)

■マンションを巡る現状と課題

今回は、国土交通省の社会資本整備審議会住宅宅地分科会に設置されたマンション政策小委員会が令和7年2月にマンションの管理適正化・再生円滑化等を推進するための総合的な施策の方向性についての議論のとりまとめについて見ていきます。
具体的には、上記とりまとめを2回に分けた上で、今回はマンションを巡る現状と課題を、次回は当面取り組むべき施策の方向性を見ていきます。
そもそも、このような議論が行われた背景ですが、マンションは国民の1割以上が居住する重要な居住形態となっている一方で、建物と区分所有者の「2つの老い」等が進行し、マンションの管理・再生の両面で課題が深刻化しているという点が挙げられています。この点は、これまでの連載の中でも何度もご紹介差し上げているので、詳細には立ち入りません。
次に、とりまとめは、マンションを巡る現状と課題について、①マンションの管理に関する現状と課題、②マンションの再生に関する現状と課題、③地方公共団体のマンション政策における現状と課題という3つの観点から整理しています。
まず、①マンションの管理に関する現状と課題について、とりまとめは総論部分で「高経年マンションが増
加する中、日頃から適正に管理し、計画的な大規模修繕工事等によってマンションの長寿命化を図っていくことが重要である。一方で、高経年マンションでは、区分所有者の高齢化や非居住化が進行している等、管理組合役員の担い手不足や集会決議の困難化等が課題となっている。」とまとめています。
そして、とりまとめは、各論部分において、適正な管理を行うマンションが評価される仕組みを通じて、管理組合による適正な管理に向けた自主的な取組を誘導するとともに、その取組を持続させることが重要であるとしています。この点は、令和2年に導入されたマンション管理計画認定制度に関連します。また、管理組合の役員の担い手不足への対応として、近年増加しているマンション管理業者を管理組合の管理者として選任する管理業者管理者選任方式への対応が課題であるとまとめています。
次に、②マンションの再生に関する現状と課題について、とりまとめはソロン部分で「高経年マンションが増加する中、修繕等では機能の回復が困難なマンションは、建替え等により再生を図ることが必要である。他方、近年、建替えに際して新たに利用できる容積率は減少傾向にあり、その結果、区分所有者の負担額は増加しており、合意形成の確保が困難な状況となっている。」とまとめています。
そして、とりまとめは、各論部分において、改正案の成立が目指されている区分所有法の見直しを踏まえ、マンションの再生等を円滑化する観点から、マンション建替法における対応方策を検討することが必要であるとまとめています。
最後に、③地方公共団体のマンション政策における現状と課題について、とりまとめは、総論部分で「適正な管理・再生が行われず、管理不全化が進行すると、居住者のみならず、周辺の居住環境にも大きな悪影響が生じるおそれがあり、その対応には多大な行政コストが必要となる。また、そうした管理不全マンションにおいては、自力での再生が困難となっていることが考えられる。マンションの管理の主体は管理組合であるものの、管理組合による管理のみでは一定の限界があることから、地方公共団体等の関与により、管理適正化等を図ることが重要である。」とまとめています。
そして、とりまとめは、各論部分において、管理不全マンションへの対応については、管理不全化を予防することが重要であり、管理不全の兆候が見られる段階から必要な対応を促すことが効果的である一方で、マンションの実態把握が課題となっていること、地方公共団体から外壁剥落等が発生するおそれの高い危険なマンションに対して、能動的に建替え等を働きかける仕組みが設けられていないこと、マンションの管理について十分な知識を有し、マンションの管理組合への支援を行う民間団体の活動を促進するとともに、地方公共団体との連携を強化することで、取組体制の強化を図ることが必要であるとまとめています。
このように、とりまとめのマンションを巡る現状と課題では、昨今の法改正後のマンションの実態を踏まえた現状と課題がまとめられています。
次回は、今回取り上げた現状と課題を踏まえて、当面取り組むべき施策の方向性としてどのような指摘がなされているのかを見ていきます。
(弁護士 豊田秀一)