マンションの仕組み(第五十一歩)
■花鳥風月 / マンションの工事安全(その2)
工事現場には現場代理人と言われる現場(作業所)の長である所長がいます。現場代理人とはその建設会社の社長の代理の意味です。工事説明会の時に所長が説明した安全衛生計画は非常に重要な内容です。建設会社の規模にもよりますが、全社と支店と現場の安全衛生計画を見せてもらってください。一貫性があって、さらにその現場(マンション)特有の安全計画が盛り込まれているかを確認してください。この内容がバラバラではいけません。
工事現場では毎朝必ず8時に朝礼があります。敷地が狭いと朝礼看板も小さくなりますが、朝礼看板にはその日の作業内容や注意事項が書かれていて、誰が見てもわかるようになっています。
前号の1日のスケジュールにある、「職長参加の翌日の作業内容と搬入資材等の打ち合わせ」の内容が、ここにまとめて転記されます。その打ち合わせは「作業間連絡調整会議」といって労働安全衛生法に決められているものです。
例えば、「重機作業」「立入禁止」「有機溶剤作業」「火気作業」「上下作業」、そして「運搬車両」「天気予報」「近隣情報」など全作業員に周知する事項が書かれています。この看板を見るだけでその日の作業範囲や危険箇所等が理解できます。
たまには朝礼に参加して、一緒にラジオ体操をすることをお勧めします。朝礼に参加をすると作業員の方も緊張しますし、管理組合の本気度が伝わり、安全で丁寧な作業を心がけるようになります。
2週間に1度程度、平日に所長と現場を巡回する事を定型で行ってください。その際には工種ごとの作業手順や重点管理項目を教えてもらってください。疑問に思っていることなどは質問がしやすくなります。
そして、足場にも登ってください。「そんな危険な事はできない」と言われる方もいますが、普段立ち入らない高い場所で慣れていないだけです。足場は狭い場合がほとんどですが、すぐに慣れます。
実は足場は安全な物でなければならないのです。労働安全衛生法では足場と建物の距離や足場つなぎの間隔、足場板の隙間、墜落・落下物対策など細かに決められています。一般の皆さんでも危険と思う足場は労働安全衛生法違反の足場です。
「安全第一」と言っておきながら、足場のシートや養生ネットや通路の巾木を省略している建設会社が街中の修繕工事で散見されます。誰が見ても危険な足場で工事を行うような建設会社には注意が必要です。足場は直接仮設として見積書に計上されていますが、細部に目を配らずに不十分な安全設備で工事費を圧縮する建設会社はその程度のレベルだと思ってください。安全管理にはお金がかかります。
しっかりした所長さんや、知名度のある建設会社ならば、足場に登る時にヘルメット・保護メガネ・手袋や安全帯などを貸してくれますので、胴ベルト型の安全帯を装着して体感してください。上下がつながったフルハーネス型の安全帯(墜落制止用器具)は特別教育の資格が必要なので無資格者は使用はできません。しかし、装着はできますので、興味があるのなら体感してみるのも良いかもしれません。
実は胴ベルト型は日本独自の物で、国際基準はフルハーネス型です。2020年に東京オリンピックの開催が決まった時、厚生労働省はすべてフルハーネス型へ移行しようとしましたが、皆が普通に装着している胴ベルト型の安全帯は日本の安全文化として定着しているとして、厚生労働省と交渉を行い残してもらった経緯があります。その結果2種類の安全帯の落下距離等に関する作業姿勢の基準が出来ました。
作業員さんに「お疲れ様です」などと声をかけましょう。作業員さんには住民の皆さんに挨拶をするよう指導をしていますので、そのうちに作業員さんからも「おはようございます」などの挨拶がされるようになります。いかつい風貌の作業員さんの思いがけない優しい声に修繕工事も和んでいきます。何気の無い会話が良い仕事を醸成してくれるようになります。
次回は、マンションでの樹木観察について説明します。
(職長・安責者教育講師/マンション管理士 福森 宏明)