マンションの仕組み(第五十二歩)
■花鳥風月 / マンションの樹木観察(その1)
マンションの敷地内で樹木の名前を覚えて樹木観察を続けると四季を感じられるようになります。
現在はスマホ検索で樹木の名前等を調べることができますが、樹木同定の入口の方法の1つとして、樹木の葉(枝)の生え方(葉序:ようじょ)である互生・対生・輪生で見分けることができます。
互生は互い違いに葉が出ます。葉は少ないですが上下で重なりにくいので多くの日光を受けて効率的に光合成ができますし、葉が少ないので風通しが良くなり盛夏期の樹体の温度上昇が防げます。多くの樹木はこの互生で、マンションに植える樹種には珍しいものが少ないので区別がしやすくなります。
対生は1か所から左右対称に葉が出ます。左右対称なのでバランスよく成長でき、互生より葉の量も多いので上下で葉が重なっても光合成ができます。マンションに多く植えられている対生の樹木は、黄葉して落葉する頃にキャラメルのような甘い香りのするカツラ、同じミズキ目・科・属のヤマボウシとハナミズキがあります。皆が好きで歌でも有名なハナミズキは、北アメリカの木で基本的な花の色は白です。そして花と思っていたのは葉(苞:ほう)なのです。そのため短命な花と違って長く愛でることができます。
対生の代表選手はカエデ類です。イロハモミジからオオイタヤメイゲツなど多くの種類がありますが、すべて対生です。街路樹などで植えられている高木に、葉がカエデのような星型で秋に燃えるように紅葉する木がありますが、それはカエデ類ではなく、北アメリカのフウ(モミジ葉フウ)です。よく見ると互生です。
輪生は1か所から3枚以上の葉が出るので車輪の様に見えます。葉が多いので下の葉では光合成が難しくなりますが、葉が多いので隙間から漏れる日光を受けられます。ここから先はディープな世界に入るので興味のある方はぜひ調べてみて下さい。
やはり色が美しい花木が人気ですが、樹皮の美しい樹木も見過ごすことはできません。三大美幹木で有名なのはアオギリ・シラカバ・ヒメシャラです。
野山ではカゴノキ・リョウブ・ヒメシャラが見られます。マンションでは花も咲くナツツバキ・ヤマボウシ・サルスベリ・ヒメシャラなどが人気です。幹の美しい樹木を庭園の世界では「幹物」とも言います。
サルスベリは皆さんご存じのように、幹肌がツルツルしていて、ちりめん様の赤い花を咲かせます。
夏から秋の長期にわたって咲くので百日紅(ひゃくじつこう)とも呼ばれます。
古くから中国に多く植えられていますが、原産地は朝鮮半島とも言われています。原産地では、結ばれなかった女性の墓から1本の木が育ち100日間咲き続けて男性を慰めたとの悲恋の伝説があります。
面白いことに、サルスベリは基本的に互生ですが対生になることもある木なのです。良く曲がって育つ幹物なので、わざと斜めに植え付けすることもあります。すると植物ホルモンの1つであるオーキシンが働いて太陽に向かって光屈性という成長をして頭を上げていきます。その結果、胸を張った美しい樹皮がぐんと目立つようになり、幹物が「どんなもんだい」と言わんばかりに威張り始めるのです。
サルスベリには白い花を咲かせるシマサルスベリが存在します。サルスベリの成木は10mほどですが、シマサルスベリは20mにもなります。樹皮はサルスベリよりも白く、大きく幹がうねるので迫力があります。開花時期はサルスベリとほぼ同じなので、夏に白い花を探してみましょう。
ちなみに、紫色の花が咲くのはサルスベリとシマサルスベリの交配種のムラサキサルスベリです。
次回は、マンションにおけるシックハウスについて説明します。
(庭園管理士/マンション管理士 福森 宏明)