マンションの仕組み(第五十八歩)

■花鳥風月 / マンションの擁壁工事(その2)

マンションを建設する際には普通にあちこちに擁壁を施工します。多い例として、1階の専用庭の高さを上げるための擁壁や、駐車場の区画のための擁壁、敷地内の車路やスロープの両側の擁壁で、ほとんどは高さの低いコンクリート製のL型擁壁です。前回、高さが2m以下の擁壁は危険と書きましたが、マンションでは構造計算された擁壁なので問題はありません。個人住宅の周囲にある低い擁壁も擁壁専用の構造計算ソフトがあるので、近年の住宅擁壁も心配は無いと思います。
住宅擁壁で注意が必要なのは、擁壁の上にさらにブロックを積んでいたり、古い擁壁に継ぎ足したりしている擁壁です。どのように一体化さているのか不明で、当然ですが荷重が変わっています。古い擁壁では亀裂も入っているので、観察しながら近所を歩くと、ちょっと怖い感覚になります。

前回に書きましたが、マンションという建築物の広い敷地に接する道路が坂道の場合は、敷地を高くしたりするために擁壁を造り、その上に土を盛って斜面を造成し、フェンスを設置して植栽を植えます。
ちょっと横道にそれますが、土木の世界では法面(のりめん)保護工と擁壁工は同じくくりなので、斜面(=法面)の養生について説明します。

法面の養生には、風化や浸食を防止して安定化をはかる目的で、植生工と構造物による法枠工などの保護工があり、斜面の勾配や湧水の有無、土質やその安定性・気象条件等で多くの工法があります。
私たちが普段見ているのは、種子を散布したり、芝を張ったり、植栽を植える植生工です。
植生の生育状態を見て元気が無い又は枯れている場合は、土壌硬度を測定する必要があります。
硬度計で計測して、粘性土なら10mm~23mm、粘質土の場合は10mm~27mmであれば問題ありませんが、それ以上の数値の場合は法面安定のために地盤改良などが必要になります。
植生工のみでは不安定な場合には、法枠工などの構造物で法面を保護する必要があります。
隆起や浸食でできた崖地や山間部では当たり前ですが、日本は山や坂が多いのでマンションなどが建つ住宅地でも高さが5m以上で斜面勾配が30度以上の場合は「急傾斜地崩壊危険区域」に指定される可能性があります。
その場所に施工される法枠工とは、碁盤の目のように浮き出たコンクリート構造体が急斜面を覆う工法です。さらに勾配が急で安全性を求める場合は、そのコンクリート構造体の交点にグラウンドアンカー(超巨大な釘)を打ち込んで地盤と一体化させます。
そして、すべての擁壁や盛土・法面に必要なのが適切な湧水・排水処理です。法面の崩壊の原因は、ほとんどの場合、地表水あるいは浸透水が関係しているので、法面の安定を確保するためには、法面の上・中・下部の表面排水溝だけでなく、排水パイプによる水平排水孔(水抜き穴)が必要です。

お住まいのマンションの擁壁を点検するときは、以下の点に注意して見てください。
・擁壁上部にある法面に発生した擁壁と平行なクラック(亀裂)と法面の陥没。
・水抜きパイプ(擁壁3㎡に径75mmが1か所以上)が設置されているのが標準ですが、そこから絶えず水が出ているのは、土圧以外に常に水圧もかかっている状況です。
また、水抜きパイプが詰まって排水障害が起こり、石積みの目地等から水がにじみ出ているのもNGです。
・擁壁のクラックもそうですが、アルカリ骨材反応による亀甲状のクラックも経過観察が必要です。
・コンクリートの擁壁は一度に長い距離を施工できないため、小分けにして設置しますが、それらの擁壁の天端のレベルが合っていない場合は、擁壁に沈下や転倒が発生しています。また前後にずれている場合もいけません。
・特殊なケースですが、擁壁上の法面にさらに擁壁が構築されている場合は、さらなる注意が必要です。

マンションの管理は区分所有者が行うものですので、管理会社に丸投げするのではなく、不明な点は管理会社や分譲会社、施工した建設会社に問い合わせてください。
この機会に確認申請・行政書類などの引渡し書類を再確認してください。マンションのご自分の住戸だけでなく、周辺道路との取合いや擁壁・フェンス、斜面や植栽地をじっくり見ることで理解が深まります。

次回は、マンションにおける植栽積算について説明します。
(一級土木施工管理技士/マンション管理士 福森 宏明)

【執筆者プロフィール】
福森 宏明(ふくもり ひろあき)
長年にわたり、大手建設会社で実際に多くのプロジェクトを建設してきた現場所長経験者。
清掃工場等のプラント施設や駅前の都市再開発からタワーマンション、震災後の復興支援から廃炉事業まで携わってきました。マンションでは100億円以上の団地型マンションも数件建設しています。
「環境省・文部科学省・農林水産省指定の環境教育指導者」及び1000山登山家としても活動中。
本連載では、土木・建築・造園の専門家として最新の建設技術、実際の建築現場とメンテナンス、リノベーション、住まいの安全対策、自然環境などを執筆中。
資格:一級(土木・建築・造園)施工管理技士/建築積算士・自然再生士/マンション管理士