マンション管理組合の財務会計(第五十七歩)
■数値で見るマンション修繕積立金クライシス
第4回:「収入の平準化」と「コストの平準化」~なぜマンション管理に独自の「仕組み」が必要なのか~
マンション管理士&税理士の大浦です。
第3回では、積立金値上げへの心理的な抵抗と、借入れという厳しい現実を解説しました。
今回は少し視点を変え、そもそも「長期修繕計画」や「修繕積立金」という制度が、どのような思想で設計された制度なのかを、企業経営における資産管理手法「ファシリティマネジメント」との比較を通じて解き明かしていきます。
【マンション管理の基本思想:「収入の平準化」という知恵】
マンション管理における財務戦略の核心は、修繕積立金の徴収方法にあります。数十年という長期にわたり、数千万円、数億円という大規模な修繕費用(コスト)は、特定の時期に突出して発生します。これに対し、毎月定額の積立金を徴収し続けることで、管理組合側の「収入を平準化」し、突発的なコストの山を乗り越えようとします。これこそが、修繕積立金制度の根幹にある、負担を平準化するための知恵なのです。
【企業経営の思想:「コストの平準化」という戦略】
一方、企業経営における「ファシリティマネジメント(FM)」では、異なる財務戦略が取られることがあります。FMでは、「コストの平準化」という考え方があります。企業は、大規模な設備更新などで突発的なコストが発生する際、金融機関からの借入れやリースといった財務手法を活用します。これにより、一時的に発生する巨額の資本的支出(キャッシュアウト)を、月々の返済や減価償却費といった平準化された費用(コスト)に転換するのです。加えて、可能な範囲で、大規模な修繕や設備更新が単年度に集中しないよう実施年度を分散させてもいます。これらは、資本効率を最大化するための、合理的な経営判断です。
【決定的な違い:「生活の論理」と「経営の論理」】
なぜマンション管理では「収入の平準化」が、企業経営では「コストの平準化」が基本戦略となるのでしょうか。その理由は、
コストの最終負担者とその意思決定の論理が根本的に異なるからです。
マンション管理(収入の平準化)の背景: 負担者は私たち個人(生活者)です。個人の所得はライフステージに応じて大きく変動するため、所得があるうちにコツコツと資金を積み立て(収入の平準化)、将来の大きな支出に備えるという方法が、最も現実的なのです。これは「生活の論理」に基づいた、堅実なリスク管理手法です。
FM(コストの平準化)の背景: 負担者は法人(経営体)です。法人は、個人よりも信用力が高く、多様な資金調達手段を持っています。借入れ等を活用してキャッシュフローを平準化し、自己資本は本業に集中させることが固定資産減価償却という会計処理手法とも相まって「経営の論理」として合理的と判断されるのです。
【まとめ】
「長期修繕計画」と「修繕積立金」は、単なる維持管理マニュアルではありません。それは、「収入の平準化」という思想に基づき、所得が変動する「個人」が共同で資産を維持していくために特別に設計された、社会的な仕組みなのです。次回は、この仕組みの上で、危機から脱出するための具体的な処方箋を考えていきます。(第5回へ続く)
(マンション管理士&税理士 大浦智志)
以上
【執筆者プロフィール】
大浦智志(おおうら さとし)
コネクトコンサルティング株式会社 代表取締役
税理士法人アイム会計事務所 社員税理士
元最大手管理会社勤務というキャリアを活かし、不動産管理や事業承継に関するコンサルティングを展開。自身もオーナー2世の税理士として、実務と理論を兼ね備えたアプローチに定評あり。著述活動やセミナー講師としても活躍中。
・主な資格:税理士、マンション管理士
・コネクトコンサルティング株式会社URL:https://writtenoath.com/
