竹内恒一郎の現場からの手紙(第五十六歩)

■修繕工事の失敗談

今回は、マンション管理士として駆け出しの頃の失敗談をお話ししますが、改修の専門家から見たらあきれる内容だと思います。しかし、何らかの参考になるところがありましたら幸甚に存じます。

マンション管理士に合格し某団体に所属しましたがその直後、その団体に某管理組合から、第2回大規模修繕工事をするにあたり、監理者を紹介してほしい旨の依頼がありました。
入会当初は右も左も分からず、廻りから他に適当な一級建築士がいないとおだてられ、自信がなかったにもかかわらず引き受けることになってしまいましたが、ここで新築と修繕の決定的な違いを痛感することとなりました。
規模は、RC造7階建て、22戸、当時築27年で、業務内容は管理会社が作成した大規模修繕工事の見積書を基に業者を選定し、工事監理をすることでした(管理会社は、見積はするが施工はしないとのことでしたが、余り疑問を持たずにいました)。
今考えると、とんでもない仕事の受け方をしたと、自分でもあきれていますが、ここでのとんでもない経験は後に大変役に立ちました。
提示された見積書の工事項目と数量については一応チェックし、その上で単価欄を白紙にしたもので数社から相見積もりをとり、ヒアリングをして1社を決め着工しましたが、トラブルが続き、その顛末は以下のとおりです。

《トラブルの原因とその内容》
1.工事監理者として既存建物の施工状態(仕上がり状態)のチェックが不十分で、建物状況を発注者と共有できていなかった。
2.そのため、見積範囲外の要求が多く、それに対するスピーディな対応がとれずトラブルの原因となった。
3.工事監理者として、業者への管理・監督・指導が不十分であった(力不足)。
4.揉めた主な内容は以下のとおりです。

《小さなトラブルから感情的な問題に発展》
新築時の説明不足や、発注者と業者間のちょっとした行き違いに対する初期対応が遅れ、発注者(特に奥様)が感情的になり、本来であれば理解してもらえる当方の説明に対しでも聞く耳を持たなくなりました。

《業者の問題点》
1.工事業者の選考には、発注者同席の下ヒアリングはしたのですが、金額だけに偏った選択をしてしまいました。
2.元請業者は、下請け業者へ丸投げで、元請業者の担当者は着工後直ぐに過労で倒れ、竣工まで誰も来ませんでした。

《トラブル処理の対策》
1.元請業者は現場にも来ないで、訴訟も辞さぬという態度でした。
2.元請業者には内密で、下請け業者の社長と話をし、私も協力するので兎に角我慢をして最後まで仕事を納め、引渡しができるようにすることを納得させ、私もほぼ毎日現場に行きました。併せて、アフターサービスや定期点検にはきちんと対応することも下請け業者に確約させ、なんとか引渡ができることとなりました。

《施主に対する処置》
引渡が無事完了後、私の監理報酬を全額返納することにより監理業務委託契約を解約し、今後一切の債権債務がないことの確約書を交わすことにより一件落着となりました。

《反省》
ついついおだてられて足を突っ込んでしまった判断ミスが全てですが、こんな隠れた施工不良の建物があることにも驚きました。又、当たり前のことですが、補修はあくまでももとあったとおりに戻すということで、改良とは別物であることも学びました。今後機会がありましたら、管理組合にも伝えていきたいと思っています。

【ちょっと一服 花のお話し】
《ギンリョウソウ(銀竜草》
植物の定義から外れる、葉緑素をもたない植物で、菌類に共生する腐生植物です。初めて見たときは、その場所だけ別世界のような幽玄な雰囲気にのまれ言葉を失いましたた。昔はちょっとした雑木林の薄暗いところで見ましたが、ここ65年ほど見かけなくなりました。環境の変化でしょうか、さみしい限りです。
(マンション管理士、一級建築士 竹内恒一郎)

【執筆者プロフィール】
竹内恒一郎(たけうち こういちろう)
竹内マンション管理士事務所所長
某建設会社で、構造設計、建築営業、マンションの開発分譲、子会社の管理部門の改革などを経験。
自宅マンションの大規模修繕工事での実務経験を活かし、マンション管理士として巾広く活躍中。
・主な資格:一級建築士、マンション管理士