竹内恒一郎の現場からの手紙(第五十七歩)
■つくば方式
今回は「つくば方式」というマンションのお話しです。
つくば方式とは、正式には「スケルトン定借」のことで、小林秀樹先生(経歴は後述)が定期借地権を利用して提唱されたものです。
詳しくは後述しますが、この方式により建設されたマンションの区分所有者から、マンション管理士として相談を受けた場合は、一般のマンションとはその仕組みにかなりの違いがありますので、注意が必要です。
以下、参考になれば幸いです。
1992年(平成4年)に、土地の有効利用を促進し、土地所有者・借地人双方にとって公平な土地利用関係を実現することを目的として借地借家法が改正されました。
定期借地権には、主に次の3種類があります。
1.一般定期借地権(借地借家法第22条)
・期間:50年以上
・期間満了後、更新・建物買取請求・再契約の請求はできません。
・契約は公正証書で締結する必要があります。
特徴:長期間の安定利用を前提としつつ、満了後は確実に土地を返還します。住宅地や商業施設で広く利用されています。
2.建物譲渡特約付借地権(第23条)
・期間:30年以上
・期間満了時、借地人が建物を地主に譲渡する特約を結ぶものです。
特徴:地主は建物を引き取ってそのまま利用でき、借地人は土地を返還する代わりに譲渡代金を得られます。
3.事業用定期借地権(第24条)
・期間:10年以上50年未満(事業用に限る)
・住宅ではなく店舗・オフィス・倉庫などの事業目的に利用されます。
特徴:契約は公正証書によることが必須で、更新はありません。
このうちの、「一般定期借地権」と「建物譲渡特約付借地権」を組み合わせて「つくば方式」は成り立っており、「建物譲渡特約付定期借地権」と呼ばれています。不動産登記方法も整理されています。
又、この方式の前提として、建物を「スケルトン」と「インフィル」という概念で区別しています。
これは、スケルトンは構造躯体、インフィルは内装、給排水衛生設備及び電気設備等の付帯設備となり、後々分離が容易にできるようにしておく必要があり、設計時点で特別な工夫が必要となります。
この概念のもとに、マンションを希望する方が地主と「建物譲渡特約付定期借地権契約」をしてマンションを建設しますが、初期の段階では、このようなマンションを希望する方数人がグループをつくり、いわゆる「コーポラティブ方式」で建設されました。
概念図は右図のとおりですが、詳しくは以下のURLでご確認ください。
小林秀樹のコラム:つくば方式とは何か
小林秀樹先生が「つくば方式」を提唱されたとき、弁護士をはじめいくつかの設計事務所や建設会社が参画し研究を行っていましたが、私も会社の方針でこの研究会に参加しており、1996年に2号棟の建設に参画しました。
又、この方式を普及させるため「スケルトン定借普及センター」をつくりコーディネーターを養成しいくつかの実績を残しました。
詳細は以下のURLでご確認ください。
スケルトン定借普及センター(つくば方式) 入居者と地主の30年後、60年後を見据えた集合住宅!
この「スケルトン定借普及センター」の正規の指導の下に建設されたマンションの区分所有者でも、代替わりや転売等で本来の趣旨を正しく理解されていない方がマンション管理士に相談に来ることも考えられますので、その際には前述の「スケルトン定借普及センター」を紹介し、そちらで相談されるようにご案内することをお勧め致します。
又、当時のコーディネーターが、「スケルトン定借普及センター」を通さずに独自判断で建設されたマンションもあるかもしれませんので、ご注意いただければと思います。
《参考》
小林秀樹先生の略暦
1985年(昭和60年)東京大学大学院博士課程修了(工学博士)
1996年(平成8年)旧建設省建築研究所 第1研究部 住宅計画研究室 室長
(研究所が茨城県のつくばにあったことから「つくば方式」として提唱した。)
2002年(平成14年)千葉大学工学部都市環境システム学科 助教授
2020年(令和2年)千葉大学名誉教授 退官
2011年(平成23年)~2014年(平成26年)(一社)日本マンション学会会長
2022年(令和4年)逝去(享年68歳)
【ちょっと一服 花のお話し】
《ヒトリシズカ(一人静》
名前の由来は、花の咲いた草姿を静御前に見立て、花穂が一本なのでこの名前があります。名前の割には群生していることが多く、最近では園芸店でも見かけるようになりました。
花言葉は「静謐」「隠された美」 2月4日の誕生花です。
(マンション管理士、一級建築士 竹内恒一郎)
【執筆者プロフィール】
竹内恒一郎(たけうち こういちろう)
竹内マンション管理士事務所所長
某建設会社で、構造設計、建築営業、マンションの開発分譲、子会社の管理部門の改革などを経験。
自宅マンションの大規模修繕工事での実務経験を活かし、マンション管理士として巾広く活躍中。
・主な資格:一級建築士、マンション管理士
