竹内恒一郎の現場からの手紙(第五十九歩)

■マンション管理士としての努力

今回は、一級建築士の資格を持つマンション管理士として自分自身が努力をしていることをお話しします。「当然」とか「今更」というご意見もあるかと思いますが、ご容赦ください。

建設会社にいた現役時代のお客さんは、その会社の建築担当の方がほとんどでしたので、建築の知識はそれなりにある方ばかりでした。
しかし、マンション管理士として管理組合の方と建築関係のお話しをするようになり、建築について全くの素人の方との話し方は根本から変える必要を痛感しました。
中にはピンポイントでの専門家がおられ、我々が太刀打ちできない方もおられましたが、そのような方は管理組合の運営という視点が欠けていることが多く、そのような方との話し方も習得できました。

最初の経験は、自宅マンションの第1回大規模修繕工事の専門員を依頼されたことでした。
マンション管理士になる前の現役時代でしたが、設計監理方式で実施することになり、管理組合と設計事務所との間に入り専門用語等の通訳をする立場になったことにより、管理組合の理解がスムースに進み、設計事務所の方から感謝されたことがきっかけです。
このような経験から、自分なりに心掛けていることは以下のようなことです。

1.「言った」からといって「伝わった」とはならない
実社会でも枚挙にいとまがないトラブル原因だと思いますが、管理組合相手の場合、「言った」ことが確実に「伝わった」ことを確認しないと、先々大きな問題になることが多々あります。
この場合必要なことは「専門知識」ではなく、それをどうかみ砕いて、相手に「伝わる」ように説明でき、「伝わった」ことをどう確認するかの能力だと思います。
言わずもがなのことですが、たとえば大規模修繕で防水改修を説明するときも、いきなり種類の差を語るのではなく、「防水の目的」「壊れやすいポイント」「それはなぜか」「放置するとどうなるか」「大規模修繕でどこまで直るのか」等を理解していただければ「なぜ今やらなければならないのか」が自然と理解されるとおもいます。

2.専門用語の翻訳
例えば、「コンクリートの乾燥収縮」とは、はじめはドロドロだったコンクリートが乾燥し硬化する過程で、含まれていた水分が徐々に抜けることで収縮する性質があるというような具合です。
この翻訳能力は、自身の理解力の程度によることを痛感します。
以前、「構造クラック」の説明で、1953年頃おきた世界初のジェット旅客機の連続墜落事故原因の話をするとご高齢の方には受け理解が進んだ記憶があります。この事故をご存じない方にも飛行機や新幹線の窓が円い理由を説明するとすんなり理解していただけました。ただ、マンションの窓では丸くできないので、コーナーのコンクリート内部に補強筋を入れていますがそれでも収縮等によりクラックは入りますが、定期的にクラック補修をして鉄筋が錆びないようにすることが大規模修繕工事の目的の一つであることを説明して理解されました。

3.「たとえ話」の活用
適切な「たとえ話」はその場を和やかにしたうえで理解度が高まります。
使い古した例ですが、建物の給排水管を人体の循環器官や消化器官に例え、適切なメンテナンスの必要性や時には外科手術も必要になることも説明しました。
たとえ話とはちょっとずれますが、現役時代、マンションの販売事務所で来客対応をしていたとき、ある男性が母親のためにワンルームを1室買いたいと来られたのですが、気に入った角部屋の部屋番号が404であったためためらっておられました。数日後その母親が訪れ404の部屋を気に入られたのですが、息子さんの意向を気にされていましたので、私は「シアワセ」と読んで息子さんに話されたら如何ですかと申し上げましたら、大変喜んでいただき販売することができました。

4.修繕をしなかった場合のリスクを簡潔に説明
我々はつい、「どんな工法が優れているか」という話を先にしてしまいますが、住民の心配はコストの心配と修繕を先送りするとどうなるのか、その影響がどの程度深刻なのか、どこまで待てるのか、という意思決定に必要な情報だと思います。
たとえば、タイルの浮き補修の場合、、今すぐ落ちる可能性は低いが年々リスクは増えていくので、どうしても予算がきつい場合は、腰から上は剥落すると危険が大きいので実施し、腰から下は万一剥落しても危険が少ないので先延ばしする、といったアドバイスも必要かと思います。

5.結論を先に言う
日本人の悪い癖で、だらだらと前置きをした後に結論を言う傾向にありますが、聞く方としては結論を先に聞き、その理由を後から聞いた方が理解が深まり、適切な質問も出てくると思っています。
私自身なかなか思うように行かないところもありますが、努力をしています。

 

6.訊く立場で話す
当然のことですが、なかなか難しいところがあります。
何か問題が起きたとき、建築基準法ではこうなっていますとか法律ではこう規定されています、という説明ではなく、その法律ができた背景を併せて説明できれば聞き手の理解度は増すと思いますし、対策も出てくるのではないでしょうか。

7.知ったかぶりをしない
マンション管理士としての駆け出しの頃、内容は忘れましたが、管理組合の理事の方に何気なく主観で返事をしたときにその根拠を訊かれ返事に窮し、解任されたことがあります。それ以来発言する場合は必ずそれなりの根拠を確認するようにしています。
コンサルタントとして心掛けていることは、先ずサービス業(接客業)であること、問題の解決の選択肢をいくつか挙げ、そのメリットとデメリットを正確に伝え、最終判断は管理組合にしていただく、いうことです。

したり顔で思いつくまま綴りましたが、参考になれば幸いです。

 

 

【ちょっと一服 花のお話し】
《ナンバンギセル(南蛮煙管》
このナンバンギセルも前に述べたギンリョウソウと同じで葉緑素をもたない植物です。
万葉集(巻十)に「道の辺の尾花が下の思ひ草今さらさらに何か思はむ」と詠まれた思草が、尾花(おばな、ススキの別名)の下に咲くことから、これがナンバンギセルと推察されているそうで、実はナンバンギセルはススキを主な宿主とする寄生植物ですが、最近はほとんど見ることがありません。万葉集に読まれていたことに由来したと思われる「物思い」という花言葉があります。
(マンション管理士、一級建築士 竹内恒一郎)

【執筆者プロフィール】
竹内恒一郎(たけうち こういちろう)
竹内マンション管理士事務所所長
某建設会社で、構造設計、建築営業、マンションの開発分譲、子会社の管理部門の改革などを経験。
自宅マンションの大規模修繕工事での実務経験を活かし、マンション管理士として巾広く活躍中。
・主な資格:一級建築士、マンション管理士