竹内恒一郎の現場からの手紙(第六十歩)
■建築士から見るマンションの裏側(その1)
昭和50年頃の現役時代にマンションの開発・分譲に携わっていた経験から、マンションの裏側のお話をしてみます。
マンション管理士としていろいろなマンションに接していると、なぜこのような権利関係になっているのかというような疑問を多々感じる場合があると思いますので、マンションがどのように供給されてきたかをご理解いただければ、マンションの形態は「法令等の諸々の制約の中で選ばれた現実的な結果」であるということがご理解いただけると思いますので、以下にその背景を述べてみます。
1.社会的背景
戦後の住宅不足の解消は最大の政治課題でした。昭和25年に住宅金融公庫ができ、昭和30年には日本住宅公団ができて、住宅不足解消の一翼を担いました。又、「団地型」という新しいモデルができ、その結果として、当時は高級金属で庶民の手には届かなかったステンレス製の流し台が普及し、エリート層の羨望の的となりました。全戸南向きで、ゆったりとした空地を十分にとった良好な住環境が提供されましたが、その反面、中階段方式としたため、5階建てでも経済的理由からエレベーターの設置ができず、そのツケが現在に来ています。又、階高も当時の日本人の体型を基準としたため、課題のひとつとなっています。
コンクリートの躯体も、構造的に安定した壁構造とし、柱・梁型が出ず内装工事もやり易いという利点がありましたが、間取りが固定化され、階高と併せ、融通の利かない間取りとならざるを得ませんでした。
そのような中、昭和40年代から民間の分譲会社による、いわゆるマンションが大量供給されてきました。
2.マンションの供給側からの事情
マンションを作るためには土地がなければ話しが始まりませんが、土地取得に回せる金額は、その土地にどの程度の規模のマンションが建てられ、売れる面積(専有面積)がどの程度確保でき、それをいくらで売ることができるかということにより決まってきます。
従って、マンション(建築物)は理想形を追う仕事ではなく、前述のとおり、安全対策を含めた法規、構造、施工性、コスト、工期、維持管理、近隣の承諾といった条件の中で、最もバランスの取れた形(言い換えれば妥協の産物)を探すこととなり、出来上がった建物を外から見て不合理に見える部分にも、必ず理由があるということになります。
3.供給側の立場での反省(過去を振り返って)
前述で「安全対策を含めた法規、構造、施工性、コスト、工期、維持管理、近隣の承諾」といった条件の中で、最もバランスの取れた形を探すこと」と申しましたが、供給側(分譲業者、設計者)に求められる現実は「専有面積をいかに多くとるか」ということと「コスト削減」でしたので、分譲業者も
設計者も、容積率を一杯まで利用し、その上で専有率(延床面積に対する専有面積の比率)を如何に上げるか、そしてどのようにコストを下げるかの競争となりました。それがコスト面で極端に悪い方向にいってしまったので姉歯事件です。
しかし、邪心なく真剣に考えた結果出てきたコストダウンのひとつにステップエレベーターがあります。正直我々はコロンブスの卵と感心しましたが、現在では、バリアフリーの観点からその対策が重荷になっています。
もう一つはバリアフリー対策ですが、当時の分譲業者も設計者も自分が車椅子生活をするようになるかもしれないということはまったく考えず、効率化とコストダウンだけを考えていました。
現在、マンション管理士として当時の建物をみて、反省しながら業務に携わっています。
4.近隣住民の承諾という壁
当時は、建築基準法、都市計画法等を満足していても、各自治体の開発指導要綱として近隣住民の承諾という壁があり、そのことが、分譲業者としては購入した土地が100%利用できない可能性があるという最大のリスクとなっていました。
そのため、土地を先行取得する資金力の無い業者(弱小不動産業者、施工業者、設計事務所)は、近隣対策を済ませ、諸規制を満足した上で確認申請を済ませたものをそっくり分譲業者に持ち込む方法が出てきました。
私事ですが、数件の自社開発物件の近隣折衝を一人で行い、全て補償金の支払ゼロで済ませたことが自慢です。ある物件では、地鎮祭の時にカメラを忘れ、強固に反対された奥様方からカメラを貸していただいたこともあります。
5.マンションの供給方法
前述のように、マンションの供給には色々と苦労が伴いますが、次回はその方法について記してみます。
4で述べた方法は一般に「専有卸」と呼ばれていました。その他、「等価交換方式」等がありますので、それらをお話し致します。
【ちょっと一服 花のお話し】
《カタクリ(片栗》
北海道から九州に分布するユリ科の多年草で、春先にだけ地上に姿を現す「春の妖精」とも呼ばれる植物で、皆さんも群生しているところを目にされたことがあると思います。
うつむき加減に咲くカタクリの花姿が、恥ずかしそうにして気持ちを伝えられない初恋の乙女の姿や、嫉妬している人のように見えることから、「初恋」や「嫉妬」という花言葉が生まれたそうです。
片栗粉は、本来はカタクリの地下茎から作られたデンプンの粉ですが、現在大量生産され市場に流通している多くの片栗粉はジャガイモから製造される馬鈴薯デンプンです。
(マンション管理士、一級建築士 竹内恒一郎)
【執筆者プロフィール】
竹内恒一郎(たけうち こういちろう)
竹内マンション管理士事務所所長
某建設会社で、構造設計、建築営業、マンションの開発分譲、子会社の管理部門の改革などを経験。
自宅マンションの大規模修繕工事での実務経験を活かし、マンション管理士として巾広く活躍中。
・主な資格:一級建築士、マンション管理士
