管理組合の考察(第五十二歩)

■クラセル稼働での想定外の事態

5/1のクラセル稼働の直前に企画段階では想定してなかった事態が発生した。

それは水道料に関する問題であつた。
このマンションは築年数が古いので、水道使用料は管理組合が水道事業者に一棟分をまとめて支払い、区分所有者や賃借人などの水道利用者には、各自の使用分を計算して個別回収する方法が取られてきた。この業務は管理組合の正式な業務ではなく、理事長や会計担当のボランティア活動として永らく行われてきたもので、規約・細則などもなく、会計帳簿や総会や理事会の議事録にも記載がなかった。
5/1からクラセルを導入することを区分所有者やマンションの住人に告知すると、会計担当よりこの水道料管理業務もクラセルで管理し業務の軽減化をはかつて欲しいとの強い要望が出された。
緊急理事会が開かれ、この問題をどう扱うかが協議された。理事のほとんどがこのような業務があることすら知らなかった。

理事会の結論は、会計担当の業務が過大なのでクラセル導入に伴い、この業務も管理組合の正式な業務としクラセルで管理し、具体的な実施方法はクラセル導入担当に任せることになった。
この水道料金の請求、回収、水道事業者への支払い業務をクラセルシステムで管理する場合に問題になる点は二つあった。第一は水道利用者には区分所有者だけでなく専有部分の賃借人もいることであつた。第二は毎月変動する水道料金をクラセルで管理するのは過大な事務作業が必要になることだった。
これらの問題に対応するため、管理費会計から独立した水道料会計を作成し、賃借人への会計業務もあつかえるようにする必要があった。
次に、区分所有者への請求は、過去1年間の各戸の使用料金を計算し、その平均額をクラセルで毎月定額計上したうえ管理費などととともに自動引落することにし、決算月で年間の実使用額との差額調整することにした。
賃借人に対しては、区分所有者に請求することを原則として、区分所有者の合意を取ることにしたが、合意が取れない場合は今まで通り個別請求で回収することにした。この結果個別請求するものは2件にとどまり、会計担当者の業務量は大幅に軽減された。

緊急理事会の開催などの上記作業をクラセル導入告知後導入日までの1ヶ月で行わねばならなかった。
今回のような問題を回避するため、クラセル導入計画時には、もれがないように実態調査を慎重に行わなければならない。今後クラセル導入のための大きな教訓である。

5/1のクラセル導入後に最初にやったことは、導入前にクラセル運営会社に開示した情報がクラセルに正確に反映されているかの確認作業であった。区分所有者名簿や管理組合の会計資料、駐輪場の使用者名簿などである。元データをみながら、クラセル上の該当箇所と一つ一つ照合していった。

次は、クラセルを使用しての業者などへの支払い手続きである。業者にはエレベーターや防犯カメラの点検業者のように毎月定額の支払いを行っている業者もあり、消防器具の点検や日常の修繕業者のように作業が実施されたときにその都度支払いがなされる場合がある。前者は定例支払いま登録をし、後者は定められた支払日の締日までに個別に支払い手続きを行う必要がある。クラセルの支払日は原則として月2回であり、締め日はその5日前である。ゴールデンウイークの関係があり、最初の支払日を5/25と定め手続きを行った。
また、区分所有者の銀行口座からの管理費・修繕積立金の自動振替の準備を並行して行った。区分所有者から自動引落依頼書を取得し引落代行会社を通じて区分所有者の指定銀行に提出した。また、各自の管理費・修繕積立金・駐輪場使用料・水道使用量を確定させクラセルに入力した。最初の引き落とし日は6/12で、締め日は10日前であった。
これらの入力作業は実際のデータを使用し、クラセルの担当者とともに行った。いわゆるオンジョブトレーニングである。
しかしながら、銀行口座自動振替依頼書が印勘違いなどの理由で差し戻される事案もあり、6/12の自動引落ができない場合もいくつかあった。これらの場合は区分所有者と個別に連絡を取り、口座引落依頼書の再提出を依頼するとともに、引落不能分を6月中に管理組合銀行口座へ送金していただいた。
これらはクラセルを正常に稼働させるための「生みの苦しみ」であった。

数回にわたり、三菱地所コミュニティが提供するマンション管理アプリ「クラセル」を自主管理の管理組合に導入する際に必要な作業を報告してきた。私はマンションの管理をする際に会計ソフトやアプリの利用は必須であると考えている。マンション管理組合の経理を正確に記録し、その情報をミエルカすることで、マンション管理が適法・適正に行われるからである。マンション管理の歴史を振り返ると、管理者や管理会社による不正は会計が記録されず、公開されなかった場合がほとんどであった。
特にいわゆる第三者管理の場合は、管理組合や区分所有者の利益を守るためにはこれらの者の自制を促すためにも必要である。
しかしながら、これまで述べてきたとおり、このアプリの導入には様々な作業が必要で、また多数の者の利害がからみ、その調整も必要である。その意味で中立であるマンション専門家の助力があった方がよいと考える。提供元の三菱コミュニティのサポート方式や私の所属する「管理組合を共同運営する会」のクラセルサポートサービスを利用されることが良いと思う。

尚、「管理組合を共同運営する会」では、現在、期間限定でZOOM会議を利用した無料相談会を開催している。会計ソフト/アプリを導入して管理組合の改革を検討しようとする管理組合関係者はご利用されることをおすすめする。

(マンション管理士 渡邉元)