管理組合の考察(第五十六歩)

■標準管理規約の改定

やっと改訂標準管理規約が発表されました。

早晩改訂標準管理業務委託契約書も公表されると思います。これでマンション管理に関する基本法体系が整備されることになります。

各法令を説明する前にこれらの法的性格・序列についてのべます。
区分所有法はマンションを含む区分所有建物の基本法で有り、一般法の最上位法です。このことは、改定区分所有法に反する法令は改訂区分所有法の施行日である来年4月1日からは原則として無効になり、改訂区分所有法の条文が適用されるということです。
これが原則ですが、原則には例外があります。
例外の第1は区分所有法自体が例外のある場合を認めている場合です。「管理規約で別段の定めをすることができる。」などと記載されている場合です。多数の条文があるので確認してほしい。
第2は、特別法は一般法に優先するという法適用の原則です。特別な状況に対処するために制定された法律はその適用される範囲内に限定して一般法である改訂区分所有法に優先して適用されるという原則です。被災地特別措置法などが典型的な例です。もちろんいくら特別な場合だといっても、下位の法令である政令や条例で区分所有法の内容を変えてはありません。

それでは標準管理規約はどのような法的性格を持つのでしょうか。
標準管理規約は、国土交通省が作成した「参考モデル」です。
従って、法律のような拘束力(=強制力)はなく、各マンションの管理組合が独自に変更・削除・追加しても構いません。
つまり、管理組合はそのまま採用しなくてもよく、実情に合わせて自由に条文を変えてもよいわけです。
しかしながら、実務上は強い「準則的効力」を持っています。それは行政や司法そしてマンション管理の現場で実質的な基準として採用されているからです。
その理由は、標準管理規約は法令との整合性が担保され違法な条項を含まず、社会状況の変化に対応して更新されるからです。
従って、標準管理規約に違反した管理規約は不利に扱われる可能性が高くなります。
例えば、個別の管理規約の合法性が争点となった裁判で、標準管理規約と異なる場合に無効・不当な条項とされた事例が多くあります。
また、補助金や専門家派遣など行政から支援を受けようとした場合に、「標準管理規約に準拠しているか?」を支援条件にしている場合も多いです。また「マンション管理適正化診断サービス」や「管理計画認定制度」では、評価項目に「標準管理規約を参考にしているか」が含まれています。

それでは、今回の標準管理規約の改定では、どのような項目が附加・改訂されたのでしょうか。

まず、区分所有法やマンション管理適正化法などの法改正に伴う改定があります。
• 組合員・居住者名簿の作成・更新義務の明確化
所在不明・非居住化している所有者が管理組合の運営を阻害するという問題に対して、所有者・居住者の把握を制度的に強化しています。
例として、規約第31条(組合員の住所変更等の届け出義務)が新設・明文化されました。
• 所在等が判明しない区分所有者への対応条項の整備
管理組合がそのような所有者を把握・対応できるよう、探索費用をその所有者に請求できる条項の新設などがあります。
• 管理情報の「見える化」推進
修繕積立金の変更予定等を明示するなど、管理状況を組合員・所有者に分かりやすく提示する仕組みが強化されています。
• 決議・総会・理事会運営に関する規定の補強
例えば、IT・Web 会議を使った総会・理事会開催可能とする制度(過去改正)や、工事の決議要件(普通決議/特別決議)の考え方を明文化するなど、意思決定をより円滑にするための改正がなされてきました。
• 海外に居住する区分所有者のための国内管理人制度を導入とその選任方式などを明確化しました。

次に、社会状況やライフスタイルの変化に対応した改定があります。
• 電気自動車(EV)用充電設備の設置を推進する条項の新設または明文化しました。
• 宅配ボックス・置き配に関する決議要件などのルール整備をしました。
• 管理組合・理事会等資料の保管・管理義務を明確しました。

次回からはこれらの改定条項をマンション関連法の改正と合わせて説明する予定です。

(マンション管理士 渡邉元)

【執筆者プロフィール】
渡邊元(わたなべ はじめ)
MSAマンション管理士事務所 代表(メールアドレス:msahajime@gmail.com
明治大学法学部卒業後、米国法人総合金融会社・航空会社勤務をする。退職後、大手マンション管理会社に再就職し、マンション管理士等関連資格を取得し、独立開業する。
現在、「管理組合を共同運営する会」の事務局長として活躍中。
管理組合を共同運営する会ウェブサイト:https://kyoudou-unei.com/