管理組合の考察(第五十七歩)

■標準管理規約の改定 その2

先月末、マンション管理センター主催のセミナーに参加しました。テーマは、改正された区分所有法と標準管理規約についてです。標準管理規約の改正が17日に発表されて以降、この種のセミナーや説明会は各地で開催されており、私もオンラインを含め複数参加しました。改正範囲が広いため基本的な内容は同じですが、講師によって強調するポイントが異なり、とても興味深いものでした。

※(公財)マンション管理センター https://www.mankan.or.jp/

今回、地元から離れた会場のセミナーに参加したのは、講師が国土交通省の担当部局の幹部だったためです。実際に改正作業を担った方のお話であれば、改正の理由や解釈の標準が理解できると考えたからです。
期待したとおり、その点は十分に把握できました。ただし、マンション管理の現場で生じている具体的な課題への言及は少なく、内容としては“基本となる標準”の説明が中心でした。講師によれば、今後も全国で同様のセミナーを開催していくとのことです。お近くで開催される際には、管理組合の皆様にも積極的に参加いただき、改正区分所有法や標準管理規約の理解を深めていただきたいと思います。

民間主催セミナーの中では、神奈川マンション管理組合ネットワーク主催のセミナーが最も参考になりました。講師は弁護士でマンション管理士でもある S 氏で、実務家らしく管理の現場で想定される問題点について丁寧な説明がありました。

※NPOかながわマンション管理組合ネットワーク
https://www.jinkan-net.com/

私の関係する管理組合からも、今回の改正について「説明会を開いてほしい」「理事会で解説してほしい」との依頼を複数いただいており、S 先生の講演内容を参考に、各管理組合にとって有益な説明ができればと考えています。

今回の各セミナーで共通して述べられていたのは、「ほとんどの管理組合で管理規約の改正が必要である」という点です。区分所有法の改正により、来年4月1日の施行日以降、同法に反する管理規約の条文は無効となります。また、多くの規約は旧標準管理規約に基づいており、今回の改正標準の趣旨と食い違う部分も生じています。
こうした規約をそのまま運用すると、管理組合役員や区分所有者に誤解を与える可能性があります。さらに、現行規約の制定以降に追加・改正された関連法令も多く、今回の改正標準管理規約はそれらにも対応したものとなっています。

この機会に、皆様のマンションでも管理規約の見直しを検討されることをお勧めいたします。もちろん、法令上改正が義務付けられているわけではありませんが、放置することの不都合は少なくありません。
管理規約はマンション管理の根幹をなすものであり、改正手続きも容易ではありません。おそらく今回改正すれば、次に見直されるまで10年以上を要するでしょう。したがって、今回の改正作業は拙速に進めるべきではありません。標準管理規約と“同じ”にすればよいというものではなく、各マンションの実情に合わせ、かつ法令に適合した規約とする必要があります。そのためには、組合員から現在の運営上の課題や意見を幅広く聴取することも重要です。
改正作業には相当の時間がかかりますので、管理規約改正委員会など専門委員会を設置し、多様な視点で案を検討することが望まれます。また、外部専門家を委員に加え、法令整合性の確認や条文構成について助言を受けることも有効です。

次回からは、私が、今回の改正の中でマンション管理の実務に影響が大きいと考えられる条項を順次解説していきます。
(マンション管理士 渡邉元)

【執筆者プロフィール】
渡邊元(わたなべ はじめ)
MSAマンション管理士事務所 代表(メールアドレス:msahajime@gmail.com
明治大学法学部卒業後、米国法人総合金融会社・航空会社勤務をする。退職後、大手マンション管理会社に再就職し、マンション管理士等関連資格を取得し、独立開業する。
現在、「管理組合を共同運営する会」の事務局長として活躍中。
管理組合を共同運営する会ウェブサイト:https://kyoudou-unei.com/