管理組合の考察(第五十九歩)

■管理委託費の見直しを契機とした自主管理検討の動きについて
― マンション管理士の立場から ―

近年、地方公共団体やマンション管理組合関係団体が主催する相談会において、管理会社による全面委託管理から自主管理への移行を検討したいという相談を受ける機会が増えています。明確な統計資料が存在するわけではありませんが、官公庁やマンション管理組合の団体の相談窓口に関与するマンション管理士としての肌感覚として、こうした相談が増加傾向にあることは否定できません。

その背景として多く挙げられるのが、管理会社から提示される管理委託費の値上げです。人件費や物価の上昇を理由に、翌年度以降の委託費改定を求められたものの、管理費の値上げについては区分所有者の理解を得ることが難しく、総会での合意形成に課題を抱える管理組合は少なくありません。その結果、管理費を抑制したまま運営を継続するための代替手段として、自主管理を検討するケースが見られます。

【自主管理を検討する際の基本的な考え方】
管理組合は、委託管理であっても自主管理であっても、常に管理主体であり、管理の最終的な責任が管理組合に帰属する点は変わりません。自主管理への移行とは、管理会社に委ねてきた実務を、管理組合が自ら直接担う範囲が広がることを意味します。そのため、自主管理を選択する場合には、管理組合としての実務遂行能力や内部体制をあらためて整備することが不可欠となります。

【自主管理において特に留意すべき事項】
第一に、会計・出納の明確化と記録の保存です。管理費および修繕積立金は区分所有者全員の共有財産であり、その管理には高い透明性と説明責任が求められます。

第二に、会計原則に則った会計帳簿の作成です。簡易的な記録や個人の裁量に依存した管理では、役員交代時や紛争発生時に支障をきたすおそれがあります。将来大規模修繕のために資金を借り入れる必要が生じた場合に必須です。

第三に、管理組合の運営組織の確立です。理事会における役割分担を明確にし、特定の役員に業務や権限が集中しない仕組みを構築することが重要です。

第四に、監査制度の充実です。自主管理では内部牽制が弱くなりやすいため、監事が実効性をもって会計および業務の監査を行える体制を整える必要があります。

第五に、管理員や清掃員を管理組合が直接手配・雇用する場合の法的留意点です。業務内容や勤務時間を管理組合が指示し、報酬を支払う形態をとる場合には、実質的に雇用関係が成立し、労働基準法等の労働関係法令の適用を受ける可能性があります。

第六に、自主管理へ移行する際の記録・資料の確実な引き継ぎです。将来のトラブルを回避するためには、管理会社が保管していた会計帳簿、契約書、修繕履歴、図面、点検報告書、議事録等の各種記録について、漏れのない形で管理組合へ引き渡しを受けることが極めて重要です。

【会計ソフト・アプリの活用と専門家支援】
これらの課題に対応する方法として、市販のマンション管理ソフトや会計アプリの活用を推奨します。専門知識がなくても一定水準の会計処理や帳票作成が可能となり、業務の標準化や属人化の防止に有効です。また、マンション管理士など専門家から部分的な支援を受けることで、リスクを抑えた運営も可能となります。

【自主管理へ移行するための手続き】
自主管理へ移行するためには、管理規約の改正および総会による決議が必要となります。管理委託を前提とした規定が残ったままでは、運営上の混乱を招くおそれがあります。十分な説明と準備を行い、区分所有者の理解と合意を得ながら進めることが重要です。

管理の形態に絶対的な正解はありません。重要なのは、管理組合が主体的に選択肢を理解し、自らのマンションの実情に応じた管理方式を選択することです。自主管理を検討する際には、公開されているツールや専門家を適切に活用し、無理のない体制を構築することが求められます。
区分所有法や標準マンション管理規約の改正に伴って、個々のマンション管理組合の管理規約の改正も求められています。自主管理への変更を検討する場合は、管理規約の変更は必須になりますので、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。私の所属する「管理組合を共同運営する会」では管理規約改訂のサポートをしていますので、ご連絡ください。

また、当会は今まで神奈川県近郊のマンション管理組合を対象に活動してまいりましたが、エリア外のマンションからの相談があり、それに対処するため当会の活動に協力いただけるマンション管理士を募集しています。ご興味のあるマンション管理士の方はご連絡ください。
(マンション管理士 渡邉元)

【執筆者プロフィール】
渡邊元(わたなべ はじめ)
MSAマンション管理士事務所 代表(メールアドレス:msahajime@gmail.com
明治大学法学部卒業後、米国法人総合金融会社・航空会社勤務をする。退職後、大手マンション管理会社に再就職し、マンション管理士等関連資格を取得し、独立開業する。
現在、「管理組合を共同運営する会」の事務局長として活躍中。
管理組合を共同運営する会ウェブサイト:https://kyoudou-unei.com/