管理組合の考察(第六十歩)
■自主管理に変更すれば管理費は下がるのでしょうか
近年、管理会社による管理から自主管理への変更を検討したいという相談を受ける機会が増えています。背景として
多く挙げられるのが、管理会社から提示される管理委託費の値上げです。人件費や物価の上昇を理由に委託費の改定を求められる一方で、管理費の値上げについて区分所有者の理解を得ることは容易ではありません。その結果、やむを得ず自主管理を検討する管理組合も見られるようになっています。
それでは、自主管理に変更すれば管理費は下がるのでしょうか。
単純に考えれば、管理会社への委託費が不要になるため、その分の費用を節約できるように思えるかもしれません。しかし実際には、それほど単純な問題ではありません。
マンション管理は、消防設備点検、エレベーター点検、日常清掃、定期清掃、植栽管理など、多くの事業者の業務によって成り立っています。管理会社はこれらの業務を取りまとめ、各業者との契約や日程調整などを行っています。
自主管理に移行した場合、これらの契約を管理組合が個別に行う必要があります。現在の契約がそのまま継続できるとは限りません。仮に継続できたとしても、料金条件が変わる可能性があります。
管理会社は多数のマンションを管理しており、各業者と継続的な取引関係を築いています。そのため、個々のマンションが直接契約する場合よりも有利な条件で契約していることが少なくありません。いわば規模のメリットによる価格です。自主管理の管理組合では、同じ業務内容であってもこのような条件を得ることが難しくなる場合があります。
もちろん、管理会社とは別の事業者に依頼することも可能です。しかし、適切な事業者を新たに探すことは簡単ではありません。特に消防設備点検のように資格や登録が必要な業務では、選択肢が限られることもあります。
さらに、自主管理には独自に発生する費用もあります。
代表的なものが会計・出納業務です。管理組合の財産は区分所有者からの管理費や修繕積立金によって成り立っています。営利団体ではないからこそ、財産管理には高い透明性と正確性が求められます。会計帳簿もマンションの実態を適切に示すものでなければなりません。
多くの管理会社は、このための会計システムを整備し、管理組合に提供しています。自主管理のマンションが同様の仕組みを独自に構築することは現実的ではありません。そのため、市販のマンション管理ソフトを利用したり、税理士などの専門家に会計業務を依頼したりすることになります。当然ながら、これらには一定の費用がかかります。
また、管理会社による管理では事務管理業務として行われていた仕事も、自主管理では管理組合が担うことになります。外部業者へ委託することも可能ですが、その場合も費用が発生します。
このように、管理会社による管理から自主管理へ変更したとしても、必ずしも管理費が大きく下がるとは限りません。自主管理を検討する際には、必要となる業務内容や費用を事前に整理し、十分に検討したうえで判断することが重要です。また費用面だけでなく、役員や組合員の負担が増えることについても考慮する必要があります。
●自主管理に向くマンション・向かないマンション
ここまで述べてきたように、自主管理には一定の負担が伴います。そのため、すべてのマンションに適した方法とは限りません。
比較的うまく機能している例を見ると、いくつかの共通点があります。例えば、戸数がそれほど多くなく、区分所有
者同士の意思疎通が比較的取りやすいマンションです。また、役員のなり手が一定程度確保でき、理事会が継続的に機能していることも重要な条件となります。さらに、会計や事務作業を担うことができる人材がいることも大きな要素です。
一方で、次のようなマンションでは自主管理の負担が大きくなる傾向があります。
・戸数が多く、利害関係の調整が難しいマンション
・役員のなり手が不足しているマンション
・賃貸化が進み、区分所有者の関心が低いマンション
・設備が多く、管理業務が複雑なマンション
このような場合には、自主管理にこだわるのではなく、管理会社との契約内容の見直しや外部専門家の活用など、別の方法を検討することも現実的な選択肢となります。
管理の方法に絶対的な正解はありません。大切なのは、それぞれのマンションの状況に応じて最も現実的で持続可能な方法を選択することだと思います。
私の所属する「管理組合を共同運営する会」では、マンション管理士などの専門家が関与する外部管理者方式による支援も行っています。自主管理を検討されている管理組合の方は、事前にご相談いただければ幸いです。
(マンション管理士 渡邉元)
【執筆者プロフィール】
渡邊元(わたなべ はじめ)
MSAマンション管理士事務所 代表(メールアドレス:msahajime@gmail.com)
明治大学法学部卒業後、米国法人総合金融会社・航空会社勤務をする。退職後、大手マンション管理会社に再就職し、マンション管理士等関連資格を取得し、独立開業する。
現在、「管理組合を共同運営する会」の事務局長として活躍中。
管理組合を共同運営する会ウェブサイト:https://kyoudou-unei.com/
